2021年01月05日
銀行の融資審査のポイントの一つ目は、「何にお金を使うのか~資金使途、資金需要の原因の検討」です。
私が、銀行で初めて融資を担当したときに言われたことは「自分のお金を貸すつもりで審査しなさい」ということでした。
自分のお金を貸すとすれば、まず気になるのが、貸したお金が何に使われるのかです。当然、納得できる使い道でなければお金は貸しませんよね。ですから、借りる側とすれば、使い道を丁寧に説明し、何故お金がいるのかを明らかにして借入依頼する必要があるのです。
以前、資金使途の種類についてお話ししました。使途は細かく分類することもできますが、大きく分ければ、設備資金と運転資金に分かれます。
設備資金であれば、どの様な設備(不動産、機械等)を購入するのかで、使い道がはっきりします。後は、資金調達の内訳がどうなるのか(自己資金はいくらか、借入はいくらか)、その設備がどれだけの収益を生むのか等が次の論点になっていきますが、資金使途としての説明ははっきりしているので、悩む必要はないと思います。
問題は、運転資金についてです。「事業のための運転資金が必要なのです」という説明だけでは不十分です。何故運転資金が必要になるのか、いくら必要になるのか資金需要の原因についての説明が必要なのです。
そして、必要運転資金額は、客観的な数値で説明する必要があります。
では、具体的な例として、売上増加に伴う増加運転資金を説明する場合について考えます。
〇新しい取引先が取れて、月商が従来よりも1,000万円増加することになりました。回収条件は2か月後の現金払いです。資金の負担が、売上から回収までの期間に発生するので、
必要増加運転資金=1,000万円×2か月=2,000万円
2,000万円の資金負担が生じます。よって、2,000万円貸して欲しい。
いかがでしょうか、この説明。
この説明では、お金は借りられません。資金需要を正しく説明していないからです。そして、事業の運転資金が何故必要になるのか理解していない経営者とのレッテルを貼られて、以後の銀行との交渉に悪い影響を与えてしまうのは間違いありません。
では、上記の条件での正しい増加運転資金額はいくらでしょうか?
その答えは「この条件だけでは、分からない」です。(怒らないでください。)
説明しましょう。
運転資金の額は(売上債権-仕入債務)で計算します。つまり、必要運転資金は借方と貸方の差額なのです。バランスシートの運転資金に係る部分をイメージしてください。貸借対照表(バランスシート)の流動部分の左と右の差です。売上債権はお金になるがまだ先、つまり立替負担です。仕入債務は払わなくてはいけないがまだ先、つまり支払資金猶予です。立替と猶予の差が実際に必要となる運転資金です。
具体的な勘定科目で示すと次の通りです。
(受取手形+売掛金+棚卸資産+前渡金)-(支払手形+買掛金+前受金)
先ほどの例では、売掛金が2,000万円増えるということしか分かりません。これでは具体的な必要運転資金額は算出できません。この売上のために仕入が発生しますので、それに係る買掛金や支払手形も増えるはずです。資産部分だけでなく、負債部分についての説明も必要なのです。
例えば、新しい取引に係る商品仕入れについて買掛期間が1カ月すべて現金払い、原価率70%ならば、
1,000万円×70%×1カ月=700万円が新たに増える買掛金の額です。
よって、在庫の負担なしの場合の増加運転資金額は
2,000万円―700万円=1,300万円になります、と言うような説明が必要になるのです。
以上の説明は理論値です。現実にはブレが生じるでしょうが、借入申込する際には、論理的かつ客観的数値の提示が必要なのです。
実際に銀行に運転資金の借入を申込めば、銀行員の側から、上記のような各勘定科目の金額や今後の推移予想を把握するために決算書や帳簿の提出を求め、いろいろと質問してくることでしょう。帳簿内容を確認し、質問することによって、資金需要の原因を探っているのです。
その様な時に、事業主から資金需要の原因について上記のような具体的数値での論理的説明があれば、借入は極めてスムーズに進むこと請け合いです。
運転資金の額は 売上債権-仕入債務 です。ぜひ覚えておいてください。
カテゴリ:融資、資金管理コンサルティング