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借入申込のポイント その2

私は元銀行員です。都市銀行で融資部門中心に27年勤めました。この経験の中で、「銀行と、もっとうまく付き合えば融資もスムーズに受けられるのに」と思うことも多くありました。事業者の皆さんには、銀行と上手に付き合う方法を知って、銀行をうまく使っていただければと思います。

さて、今回は銀行の融資審査のポイントについてお話します。審査の手の内を知って、しっかり対策を立てて融資申込しましょう。
借入申込をすると、銀行では「稟議書」を作成して融資するかどうかの検討をします。その稟議書で何を検討するのか、ザックリと言ってしまうと以下の3点です。そして、附属的に検討される事項がさらに3点あり、合計6つの事項について検討がなされます。
①何にお金を使うのか?➡資金使途、資金需要の原因の検討
②どのようにして返済するのか?➡返済原資の検討
③返済できなくなった場合の備え➡債権保全策
~これらが稟議書で検討される大きな柱ですが、他にも前提として以下の点が検討されます。
④企業内容(事業者内容)の把握➡財務内容、経営者資質、事業活動状況、業界動向
融資妙味➡金利、取引振り、関連取引
他行動向➡銀行取引状況推移

以上の点について、銀行の融資担当者が稟議に記載しやすいように情報提供してあげることで、融資スムーズに進むでしょう。ただし、こちらからの情報提供の仕方にも注意が必要です。正確、的確に稟議書に記載してもらう必要があるからです。
上記6つのポイントについて、伝え方を解説していきます。

まず、資金使途の説明の仕方について、次回、お話していきます。

借入申込のポイント その1

借入申込する際のポイントについて、お話していきます。まず、どこに借入申込するかについてです。

借入が必要なとき、前回お話した借入の種類のうちから、どんな借入のイメージを持たれるでしょうか。
たとえば、開業当初等はじめて借入するときについて考えてみましょう。
まず、どこに依頼するべきかも、戸惑うことと思います。事業を始めていれば、売上の入金口座を開設した銀行があるはずですから、口座がある銀行に依頼することになると思いますが、口座があるからと言って融資をしてもらえる訳ではなりません。

おすすめは、日本政策金融公庫(国民生活事業)です。日本政策金融公庫は財務省所管の特殊会社であり、国の政策のもと政策金融を機動的に実施するのが基本理念です。つまり、民間金融機関のような与信判断だけではなく、政策的な判断も入るので、その分「借入がしやすい」のです。はじめて借入するのであれば、日本政策金融公庫(国民生活事業)へ。
もともと、いきなりプロパー融資を申込んでも、まず無理でしょう。銀行は「実績」を求めてきます。それは信用の実績です。具体的には、銀行にリスクのない形態の取引での仕振りを見るのです。その様な場合、まず銀行が勧めるのが預金担保貸付日本政策金融公庫です。商工会や商工会議所経由で、保証協会付の制度融資を利用する手もあります。
銀行は、預金担保貸付や日本政策金融公庫の借入、保証協会付貸付等の返済が期日に確実に行われるのかを見ています。それらを約定通りに履行するという実績を積んで、そして、事業を順調に拡大することによって、次のステップへと進むことができます。
つまり、開業直後には、預担や公庫の借入あるいは保証協会付の制度融資で資金を繰り回さざるを得ない場合が多いのです。開業から何年か経過して、「事業をしっかり継続できる」という実績ができてから、通常の保証協会付融資に進むのが一つのパターンです。
預金担保貸付は、定期預金の範囲内で借入するものなので、定期預金がなければ成立しません。また、解約する代わりに借入することになるので、資金が増えるわけでもありません。銀行が預担しか対応してくれない場合には、信用の実績作りとして割り切って考えるしかありません。
日本政策金融公庫(国民生活事業)の借入についても、約定返済を守ることで、決済口座の動きが、銀行への信用の実績になっていきます。
なお、日本政策金融公庫には、「国民生活事業」「中小企業事業」「農林水産事業」があり、それぞれ取り扱う融資が異なります。これは、日本政策金融公庫が、「国民生活金融公庫」「中小企業金融公庫」「農林漁業金融公庫」の三つが統合してできたものだからです。農林水産事業は農林水産事業者の資金調達用のものですが、国民生活事業と中小企業事業の違いは何でしょうか。ざっくりと言うと、国民生活事業小規模事業者向け小口事業資金の取扱い、中小企業事業はそれよりも規模の大きな中小企業向け長期資金(基本有担保)の取扱いということになります。開業資金については、通常、国民生活事業を利用することになります。
開業資金として、保証協会付の制度融資申込も可能です。滋賀県信用保証協会では、開業資金として「創業枠」「創業サポート枠」「女性創業枠」が用意されています。いずれも責任共有制度対象外です。つまり保証割合100%なので、保証がおりれば銀行は融資してくれます。県が保証人になって100%保証してくれるので、銀行としてのリスクがないからです。
ただし、保証協会自体の審査があります。また、金利以外に保証料(1%)がかかります。そして、申込窓口は商工会商工会議所県産業支援プラザになります。

以上、開業時の借入の概要でした。
次回からは、借入審査の内幕と、その対処法等について述べていきたいと思います。

スムーズな融資実行へ向けて その2

前回に引き続き融資の種類について見ていきます。

個別稟議、極度稟議、一括稟議の分類
原則的には貸出案件1件ごとに稟議書が作成されます。これを個別稟議と呼びます。
それに対して、反復的な借入申込があるような場合に、優良な取引先に対して貸出限度額を決めてしまうことがあります。一定期間内、極度範囲内で反復的に貸出を実行するための貸出極度額の稟議を極度稟議と呼びます。
また、同質の貸出で、実行時期が接近しているものをまとめて稟議する場合があり、それを一括稟議と呼びます。この場合、まとめる稟議は、次に説明する資金使途の分類が同じものに限定されます。

資金使途による分類
融資した資金が何に使われるかによって、以下のように資金使途が分類されます。
a.経常運転資金:仕入、生産、販売等の営業活動に伴い経常的に必要となる運転資金です。この経常運転資金のうち、繰り返し継続を続けるものを、ころがし(コロ単)と呼ぶことがあります。
b.増加運転資金:売上高の増加または収支条件の変化に伴い必要となる運転資金です。
c.季節資金:季節的要因によって、一時的に必要となる運転資金です。たとえば、バレンタインデーに備えてチョコレートの製造を増やすための資金等です。
d.在庫資金:在庫を積み増す場合に必要となる資金です。
e.決算・賞与資金:納税、配当金、役員賞与等を支払うための決算資金と従業員賞与を支払うための賞与資金のことです。
f.減産資金:減産に伴い発生する資金需要に対応するものです。
g.つなぎ資金:別途財源が確定している場合の資金調達までの一時的資金需要に対応するものです。
h.月中資金:支払い先行による月中のごく短期間の資金不足に対応するものです。
i.長期運転資金:1年を超えて必要となる運転資金です。
j.設備資金:工場、機械、本社建物等への設備投資のための資金です。
k.貿易関連資金:輸出入取引に関連して発生する資金需要に対応するものです。外為与信とも呼ばれます。
l.赤字補填資金:赤字を埋め合わせるための資金のことで、融資対象となりません。運転資金として申込んでも赤字補填資金と判断されれば、否決されます。

以上、融資については様々な区分けがされます。それぞれの言葉の意味が頭に入っていると銀行員との話し合いの際に役立つでしょう。
そして、どの様な種類の融資を申込むのか、事前に整理してから交渉に臨むことが重要です。例えば、「手形貸付を部店長権限の範囲内で、新規個別稟議、プロパーで経常運転資金として申込む」と言うように明確なイメージを持って交渉に臨むのと、単に「資金が必要だから貸してほしい」との思いだけで交渉するのとでは銀行の対応が違ってきます。

では、実際に借入申込する際の注意点、ポイントいついて、次回からお話していきます。

スムーズな融資実行へ向けて その1

これからしばらく、融資についてお伝えしていきたいと思います。

まず、融資の種類について見ていきます。
融資については、いろいろな区分の仕方があります。区分と言っても金融機関側で勝手に行っているもので、借りる側からすれば、借りられれば何でもいい訳です。しかし、交渉相手の手の内を少しでも多く知っておくことは、交渉を有利に運ぶためには欠かせないことです。融資のシステム概要を整理して理解しておくことは、金融機関と借入交渉を行う際に、決して無駄にはなりません。
以下、若干長くなりますので、ご存じの部分は飛ばし読みしてください。

貸出科目による分類
貸出科目としては、商業手形割引、手形貸付、当座貸越、証書貸付等があります。

商業手形割引は、販売先から受け取った手形を銀行に割引いて(買取って)もらうものです。手形期日に手形交換所で決済された資金で返済となります。
手形貸付は、銀行の借入専用の手形に記名押印して、手形額面の金額を借入するものです。手形期日までの借入となりますが、サイト3か月程度の手形を切ることが多く、短期の借入に使われます。
当座貸越は、当座預金の赤残を一定額まで認めるものです。赤残当貸は、本来は一時的な資金不足に備えるものですが、べったり張付いてしまうこともあるので、銀行は積極的には取り上げません。また、個人の総合口座預金にセットされた定期預金に見合う貸越しも当座貸越の一種です。
証書貸付は、金銭消費貸借契約書に記名押印して借入を行うものです。約定返済付きの長期の借入の際に使われます。
支払承諾は、銀行が保証業務を行うもので、やや特殊です。こんなのもあるという程度で結構です。

融資の権限による分類
支店長の権限内で貸出できるものを店内稟議または部店長権限といいます。各支店毎に、個別案件自体の額や融資先の融資額合計について、融資先の格付に基づいて、部店長権限の金額(枠)が細かく決められています。そして、支店の格と部店長権限枠は比例して大きくなります。つまり大きな支店ほど部店長権限枠が大きいのです。
また、部店長権限の中でも預金担保付融資(預担)は別枠となり、即決でOKですし、信用保証協会の保証付きの融資(協会付)も別枠で、保証がおりれば、ほぼOKです。
なお、これら預担、協会付以外の融資をプロパー融資と呼んでいます。
部店長権限に対するのが、本部稟議または本部権限と呼ばれるものです。こちらは、支店から上げられた稟議を本部(本店)が決裁することによってはじめて融資実行できます。本部の決裁についても、金額により次長決裁、部長決裁、役員決裁等に分かれます。
当然、決裁ハードルの高い順は、役員決裁、部長決裁、次長決裁、部店長権限の順になります。

新規、継続の分類
新規稟議、増額稟議、継続稟議、折返し稟議という分類があります。
最初の三つは何となく分かると思いますが、「折返し」というのが分かりにくいと思います。これは、約定返済付きの融資について返済が進んだ時点で、金額復活させる融資というイメージです。

まだ、他にも分類の仕方がありますが、続きは後日といたします。